カワニナを通して考える地域の生態系
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岐阜県立岐山高等学校
活動内容について
生物部の活動内容はこちらよりご覧ください。
目標・展望
本高校生物部では、平成 21 年度からカワニナの研究を始め、これまでに、遺伝子の変異や移動行動について研究をしてきた。岐阜市内のある地点にカワニナの調査に行ったところ、琵琶湖固有種のイボがある殻を発見した。近くの施設で尋ねてみたところ、市内17 地点で琵琶湖産カワニナの放流が行われていることが分かった。そこで私たちがカワニナについて研究してきたことを地域の方々に発表し、琵琶湖産カワニナの放流が、地域の生態系に影響を及ぼすことを科学的に証明し伝え、放流を中止してもらうことを試みた。
活動内容
1岐阜のカワニナと琵琶湖のカワニナの生態的違いを知るために以下の4つの実験を行った。
a流れに対する耐性:琵琶湖のカワニナは流速2.0〜3.0m/sの範囲で、岐阜のカワニナは4.5〜8.0m/sの範囲で流された。このことから、流れのない琵琶湖湖底に生息している琵琶湖のカワニナは、流れに対する耐性が弱く、岐阜のカワニナの方が流れに対する耐性が強いことが分かった。
b低温に対する耐性:両カワニナとも、氷がどんなに厚く張っても氷が融ける頃には蘇生することから、低温に対する耐性は十分に持っていることが分かった。
cホタルの幼虫に対するカワニナの行動:岐阜のカワニナは水深が深い時は水槽の壁にのぼり、水深が浅い時は砂の中に身を潜めて、ホタルの幼虫から逃げた。しかし、琵琶湖のカワニナはホタルの幼虫から逃げることなく食べられた。このことから、琵琶湖のカワニナはホタルの幼虫に対する逃避行動を示さないことが分かった。
d遺伝子調査:琵琶湖のカワニナと岐阜のカワニナでは、遺伝子レベルでも大きな変異が認められた。
2ホタル会議カワニナの研究成果を自治体の代表の方々に発表した。これにより、琵琶湖産カワニナの放流を、平成22年度以後実施しないことを決定した。
3ホタルの分布調査ホタル会議で自治体の方々からホタルを増やす方策を提案するよう要求された。そこで、最初にホタルの生息域を知ることを試みた。地元の小学生にホタルアンケートという形で協力してもらった。結果、川の本流に多くの生息が確認された。川に流れ込む水路にもまばらではあるが、生息が認められた。このアンケートは、ホタルの生息域を調査する目的に加え、小学生に地元の自然に興味を持ってもらうために行った。
4出張授業琵琶湖産カワニナの放流を環境教育の一環として行っていた小学校から、放流が中止になった理由を児童に説明してほしいといわれたので出張授業を行った。川の生物やその生態系に興味・関心を持ってもらうことに加え、人の手による生物の移入の危険性を知ってもらうことができた。
5伊自良川の調査伊自良川の上流にある小学校では、3年前まで琵琶湖産カワニナの放流をしていることがわかった。そこで、放流地点を起点に、上流へ1km、下流へ1kmずつ下り、合計12地点においてカワニナの生息、流速、底質の粒径分布の調査を行った。上流域には地元のカワニナしか生息していないが、放流地点から5kmほど下ったところに、川が蛇行し水の流れがほとんどないワンドが存在していた。この場所には、地元のカワニナは生息しておらず、タテヒダカワニナとよく似たカワニナが生息していることがわかった。この地点を中心に、このカワニナは8kmにわたり生息していることがわかった。このカワニナが生息している地域の底質は泥質で、琵琶湖湖底に似ていることがわかった。このカワニナの同定は非常に難しく、外見だけでは、タテヒダカワニナであるか、広域種であるクロダカワニナであるか判断に苦しんだ。そこで、これらのカワニナの遺伝子調査(COⅠ領域)をし、分子系統樹を描いたところ、琵琶湖湖底で採集したタテヒダカワニナと、ここに生息するカワニナがかなり近縁であることがわかった。上流で放流したカワニナがここで定着・繁殖した可能性を否定できない。
成果・実績
ホタル会議において、研究発表したことにより、琵琶湖産のカワニナの放流を中止することができた。
地元の小学校に出かけ出張授業をし、ホタルアンケートを実施・報告をすることにより、「地域の生態系を守るのは君たちだ。」という私たちのメッセージを次の世代に届けることができた。
岐阜市内の河川で、琵琶湖固有種のタテヒダカワニナによく似たカワニナを発見した。これらの生態や遺伝子調査の結果、琵琶湖産カワニナ放流により、特殊な生態系が生まれた可能性を否定することはできない。安易な放流が生態系に与えた影響をこの事例から学び、今後も研究を継続し地域の生態系を守っていきたい。