公益財団法人イオン1%クラブ

国立公園における
サクラソウ自生地の保全活動

TOP > 子どもたちの健全な育成 > イオン エコワングランプリ > 過去の受賞活動 >国立公園における サクラソウ自生地の保全活動

国立公園におけるサクラソウ自生地の保全活動

青森県立名久井農業高等学校

活動内容について

TEAM FLORA PHOTONICSの活動内容はこちらよりご覧ください。

目標・今後の計画

平成25年5月に三陸復興国立公園に指定された青森県種差海岸。ここには全国的にも珍しい海岸のサクラソウ自生地があり、重要な観光資源のひとつとなっている。しかし環境の変化などにより、現在は青森県の絶滅危惧種に指定されている。また研究機関の調査では東北の中でも特別な固有種であることがわかっており、地域市民はもちろん専門家にとっても自生地の存続は観光と生物の多様性を維持するうえで重要だといわれている。私たちは東日本大震災の津波被害から救出する目的で県や地域と連携して保護に立ち上がった。現在は塩害も一段落したことから、平成25年から自生地の長期保存のため、環境調査や多様性維持実験などの研究活動に取り組んでいる。

活動内容

最初に10名のメンバーで自生地の環境調査を行った。自生地保全のためにはどのような環境下にあり、どのような問題点を抱えているかを知る必要があるからだ。しかし気象庁のアメダスの観測点がなく、今までも調査が行われたことがないことがわかった。そこで私たちは学校から自動車で約1時間かかる海岸に春から夏、週1回2年間通って環境調査を行った。項目はデータロガーによる気温や湿度の自動観測、サクラソウに届く光量、葉緑素量などの生育環境調査、また海岸における群落の位置、結実率や多様性など数十項目を超えた。さらにかつての自生地の様子についても住民から聞き取り調査を行った。
その結果、自生地は結実率が10%にも満たず、他に比べて極端に低いことがわかった。理由のひとつがヤマセという低温多湿の霧である。サクラソウの主な授粉者であるマルハナバチが活動できる平均気温15℃を超えた日は開花期でわずか1週間程度。これでは思うように活動ができない。
もうひとつは開花期を過ぎると突然、アシやハマボウフウなどによって草の中に隠れてしまうことである。そのため光は届かなくなり、葉緑素も減少してくる。これでは光合成が十分行えず、わずかに結実した種子も登熟しにくい。
サクラソウは種子繁殖できない場合は、わき芽による栄養繁殖、つまりクローンを作る。そこで群落内の花弁や花柱の形状を調査したところいくつかの異なるタイプがそれぞれ集団化していることがわかった。専門家に相談したところ明らかにクローン群落が点在しているのである。聞き取り調査からもあらたな要因が見えてきた。かつて馬の放牧場だった自生地には辺り一面サクラソウの大きな群落が存在していたが放牧が減少し、松が植えられたことで草原は暗い林に変わり、自生地が消えていったというのである。
この調査により現在海岸にある自生地は、光を求めて移ってきたことがわかった。クローンの寿命は数十年以上あるが、寿命が来るとササやタケのように姿を消す。私たちはこの結果を青森県の保全活動発表で報告したところ、ますます保全活動の大切さが理解された。たくさんの方と連携して得た課題を解決しようと保全実験に取り組むことにした。

成果・実績

そこで私たちは、自生地の遺伝的多様性を維持するアイデアを考えた。遺伝的多様性を維持するには種子繁殖が必要である。しかし他から別のサクラソウの持ち込みは国立公園ではできないうえ、固有の遺伝子が失われてしまう。そこで思いついたのが自生地の数種類のタイプの違うサクラソウ同士を人工授粉する考えである。本来ならばマルハナバチが行う行為を、人が代わって行うアイデアだが、自然に手をつけることになる。そこで筑波大学や東京大学などたくさんの保全生態学の専門家方からご意見をいただいた。
その結果、群落内での人工授粉は保護区向けの良い手法であることがわかった。そしてアドバイスを受けて限られた範囲と株で試験的に実施した。その結果、人工授粉を行うと結実率が85%まであがり、種子数も2倍になることがわかった。また枯れ草を取り除くなどのメンテナンスを行うと光量も十分確保できることも実証できた。現在は、こぼれ種からどれぐらい発芽してくるか調査中で、ここ数年は群落観察を行う予定である。これらの取り組みは、岩手県で開催された野生サクラソウサミットで報告し、国立公園における遺伝的多様性を維持する優れた手法と大学の先生方から評価された。さらに全国の保全活動に取り組まれている方々と交流を持ち、今も情報交換している。また子供たち対象の環境教室も開催し、サクラソウ保護や自然の大切さを伝えている。今年で6年目となったが、自然を愛する子供たちがしだいに増えている。さらに青森県からは仙台で開催される第1回アジア国立公園会議での発表を依頼され、私たちの取り組みを環境省や世界の保全活動の担当者に紹介することができた。英語スピーチだったが、アイデアが世界に発信でき大きな輪となっているのを肌で感じることができた。保全活動は長い年月をかけて地道に行うものである。しかし今後も美しい種差海岸のサクラソウ自生地を永遠に未来に残すために取り組んでいきたい。

戻る