羽ばたけアヒル農法 ~アヒル農法による生物多様性の保全~
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愛知県立佐屋高等学校
活動内容について
「羽ばたけアヒル農法」研修班の活動内容はこちらよりご覧ください。
目標・展望
平成 22 年 10 月、名古屋市で COP10( 生物多様性条約第10回締約国会議)が行われました。この会議は、様々な生き物がいるおかげで人間生活が成り立っていることを確認し、将来にわたって地球上の多用な生物を保護していこうというものです。私たちは、10 年以上取り組んできた「アイガモ・アヒル農法による生物多様性の保全」と題して、COP10 の農業推進フォーラムで発表させていただきました。
農業高校に学ぶ私たちは、日頃から環境に優しい農業の在り方を模索し、地域に安全・安心な農産物を提供しています。本校では、その内の一つが平成 14 年度から7 年間取り組んだアイガモ農法です。アイガモ農法とは、ご存じのようにアイガモに雑草や害虫を駆除させ、糞が肥料となることで、無農薬・無化学肥料によるおいしいお米を生産することを目的としています。しかし、この農法には、もっと重要な目的があるのです。それは、紛れもなく生物多様性の保全です。
通常、稲作農家は、除草剤や殺虫剤・殺菌剤などを、種子消毒から始まり、イネの生育期間中に 3 〜 4 回使用します。ですから、これらの水田には、雑草が一本も生えず、害虫も全く居ません。水は透き通っていてきれいなものです。昔はたくさんいた水生昆虫の姿も全く見られなくなりました。でもこれは、水田本来の姿ではないのです。水田とは、イネを育てる場所だけでなく、同時に多くの生き物を育む場所でもあるのです。そこで私たち佐屋高生は、多用な生き物を保護しながら、将来にわたって地域の水田環境を改善していくためにアイガモ農法に取り組み、そして平成 22 年度からは、より効率の良い方法を模索するためにアヒル農法を実践し始めたのです。私たちのこの取り組みは、生物種の絶滅スピードを抑えることにあります。そして、何よりも地域の皆様に、おいしいお米を提供することです。
◇最も工夫した点
アヒル農法は結構手間がかかります。生後 10 日ほどのアヒルの雛は黄色くて「ピーピー」泣くのでよく目立ちます。上空からは、カラスやトビ、サギやケリといった野鳥が、畦道からは、犬や猫がおいしそうな雛を食べようと虎視眈々とねらっているのです。そんな雛を守るため私たちは立ち上がったのです。先ずは、柵作りです。田んぼの周囲を 5 m空け、波トタンと 1.5 mのネットで頑丈な柵を作ります。なぜ 5 m空けたかというと、犬や猫が田んぼの中を泳いでまで雛を食べようとはしないだろうと思ったからです。次に、アヒルが寝る小屋です。アヒルは臆病な性格で集団で行動し、夜は陸に上がって寝ます。そのためには大きな小屋が必要になります。30羽放していますので、1畳分くらいの大きさが必要でしょう。コンパネと角材を使って、丸 3 日かがりで完成させ水田に設置しました。その時は、もう日没でした。次の日の朝、アヒルは全員 ? がその小屋で寝ていてくれました。それを見たときには涙が出ました。また、1 週間くらいした頃には、何と小屋の中に初めて 3 個の卵が産んであったのです。
◇最も苦労した点
アヒル農法は絶対に農薬を使わないので、稲を植えていない柵の周囲(5 mの部分)には、猛烈に雑草が生えてきたのです。5 mも畦道から離したのは完全な失敗でした。その結果、夏休みは草取りに追われる羽目に。柵の中は、アヒルが全て食べてくれるのに……。
活動内容
(1)移動式水田のジオラマ作製
環境に優しいアヒル農法をどこでも理解してもらうため、移動式の水田のジオラマを作製しました。大きさは畳 1 枚分です。そこへ厚さ 10 センチの土を入れました。そして、このジオラマのために育苗しておいたポット苗をしっかりと植え、アヒル小屋も設置しました。約 200kg ありますが、トラックでどこへでも運べ、アヒル農法の良さを PR できます。
(2)COP10 関連行事への参加
COP10 の前年の平成 21 年 10 月、愛・地球博記念公園で『生物多様性フェスティバル』が開催されました。私たちは、「アヒル農法のジオラマ」と「アヒル水田の水生生物のパネル」を展示しました。「アヒル農法のジオラマ」は、子供達に大人気でした。アヒルのヒナが、泳ぎ回り、草をついばむ様子を十分に観察してもらえました。会場内で 92 名の来場者にとったアンケートの結果からは、アヒル農法が、生物多様性に貢献していることが、70%以上の人達に理解してもらえたようです。11 月 14 日、今度は、COP10 パートナーシップ事業である、『第 7 回生物多様性キャラバンセミナー』で、私たちの研究成果を 92 名の参加者に発表することができました。この様子は、翌日の中日新聞に掲載されました。アヒル農法を地域に紹介でき、十分な成果があったことを確信しました。
(3)アヒル農法の実践
平成 22 年 4 月、アヒル農法の実践がスタートしました。6 月 9 日、稲作体験で毎年本校に来ている地元の小学 5 年生達は、期待に胸を膨らませ、自分たちが田植えをした田んぼへ、元気にアヒルを放ちました。愛知県では、初めてとなるアヒル農法の歴史が、今、ここに誕生しました。この様子は、翌日の新聞に掲載されました。また、地元ケーブルテレビや、CBC ラジオでも紹介されたため、連日多くの見学者が訪れました。その後アヒルはすくすくと成長し、元気に水田を動き回っています。アイガモに比べて糞の量も多く、イネの生長も良好でした。
(4)生物多様性の保全について調査
COP10 関連行事への参加をきっかけに、私たちは、生物種の絶滅について研究しました。現在は大量絶滅の時代と言われ、その数は 1 年間に 4 万種です。このままでは、様々な点で生き物に依存している人間も絶滅してしまうかもしれません。私たちの取り組みは、この生物種の絶滅スピードを遅らせることにあります。アヒル水田に棲む生き物が、現在どの程度絶滅の危機に瀕しているのか調べてみました。私たちは、毎年 7 月〜 8 月にかけて生物多様性の調査を行ってきました。今では観ることの出来ないタガメやゲンゴロウ等の多くの水生生物が確認できました。タガメは絶滅危惧種第2類に指定され、ゲンゴロウとコオイムシは準絶滅危惧種に当たります。 7 年間のアイガモ農法と 3 年間のアヒル農法により、これらの水生昆虫は確実によみがえりました。ゲンゴロウやミズカマキリ、メダカは毎年のように確認され本校の水田に棲み着いたことがよく分かります。多くの命を育むアイガモ水田。そこで私たちは、アイガモ水田と慣行田で、生き物冬眠調査を行いました。調査面積は1平方メートルで、深さは 30cm、土の容量にして 0.3 立方メートルです。これを、それぞれの水田で8カ所ずつ行いました。結果は、ドジョウやタニシは慣行田の 2 〜 3 倍ですが、ミミズについては、何とアイガモ水田やアヒル水田には 3.5 倍の 14匹もいました。さすがに、土が良く肥えていることが分かりました。そこで、アイガモの糞についても調査しました。アイガモは、1 日当たり約 104 gの糞をし、13週間放飼すると、1羽当たり 9.5kg になることが分かりました。この糞が、栄養分となり、多くの生き物が棲み着くことが科学的に検証できました。
(5)地域への普及活動
環境に優しいアヒル農法を地域へ PR するには、わかりやすい資料が必要だと考え、カラーチラシを作製しました。そして、学校周辺の稲作農家 12 軒を回ってチラシを配布し、アヒル農法への理解と今後の協力を求めました。既にテレビやラジオで私たちのプロジェクトをご存じの方が多く、2 軒の農家から休耕田の提供に前向きなお返事をいただきました。
さらに、地元の農業関連企業を訪問しました。この会社は既に、有機農法で酒米の栽培を行っているのですが、今後私たちと協働でアヒル農法を実施することが決まりました。一生懸命サポートし、地域に話題を提供すると共に、アヒル農法の輪をますます広げていければと考えています。
校外への普及活動だけでなく、私たちは、校内にも目を向けました。平成 25 年度からの新学習指導要領の施行にともない、新科目「農業と環境」が始まります。
私たちのアヒル農法は、農業生産と環境の改善を一体的に学ばせる上で、最適な教材であると考えています。そこで、夏休みの 1 年生の「総合実習(当番実習)」において、3 年生の専攻生が、このプロジェクト活動の成果を、しっかりと 1 年生に指導しました。後輩達にも、今後の活動の継続を期待したいと思います。私たちのアヒル農法は、平成 21 年 11 月と 22 年8 月の 2 回、 NHK のテレビ番組「ほっとイブニング」で紹介されました。この活動を広く愛知県民の皆さんに知っていただくことができたと確信しています。
成果・実績
無農薬アヒル米の分析結果です。注目すべきはタンパク質含量の低さです。何と 6.2%でコシヒカリよりも低く、良い数値となりました。化学肥料をいっさい使わず、アヒルの糞が、イネの生育全期間にわたって緩やかに効くためだと思われます。そして、総合的な食味評価を表す「スコア」は 83 点でした。JA の食味分析官が言われるには、これは、かなり良い数値だと言うことです。
販路の開拓です。アヒル農法の収量は 10 aで330kg でした。これは、慣行法に比べて 3 割程度少なめです。単価は、付加価値を付けて 1 袋 5kg で 1,500円とし、地元 JA へ販売委託することにしました。
平成 22 年 11 月、金山総合駅で行われた「あいちサンフェスタ」では、アヒル農法のジオラマを展示し、教育委員会の先生方に説明することができました。また、来場者にアヒル米の試食も行い、大変好評でした。
稲刈りが終わり、役目を終えたアヒルは、通常は肉として売られていくのですが、私たちはハウス内で飼育し、副産物である卵をとることにしました。21 羽いて、 11 羽がメスです。毎日たくさんの大きな卵を産んでくれます。
11 羽の雌が 1 ヶ月間にどれだけ産卵するか調査したものです。1 月と 2 月が産卵数が多く、アヒルの繁殖期であることがよくわかります。8 ヶ月間で 1328個もの卵を産みました。慣行法とアヒル農法の経費を 10 a当たりで比較してみました。
慣行法は、肥料費や農薬費が多くかかり、合計 22,735 円です。一方アヒル農法は、アヒルを守るための柵が必要で、資材費がかかります。合計で 17,055 円でした。比較すると、アヒル農法の方が、5,680 円も安いことがわかりました。
以上の結果から、環境に優しいコメ作りが推進でき、生物多様性の保全に貢献できました。