錦鯉廃棄稚魚を活用した
魚醤生産と鯉米栽培
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広島県立世羅高等学校
活動内容について
農業経営科の活動内容はこちらよりご覧ください。
活動内容
広島城は別名「鯉城」とも呼ばれ、地元プロ野球チーム「広島東洋カープ」の名称にも使われるなど、鯉は広島県と縁の深い魚です。高校近くの阪井養魚場は、養殖面積50ヘクタールを誇る日本一の養魚場です。泳ぐ鯉は生きた宝石と呼ばれるにふさわしく美しく優雅です。その一方で多くの鯉の稚魚が発色の悪さを理由に産業廃棄物として処分されていることを知りました。1年間に生産する鯉は400万匹にもなりますが、発色の良い鯉以外の稚魚は選別され廃棄されます。その数396万匹で約8トンにものぼります。せめて何か生かせないかと強く思い研究を始めました。
食用の養殖鯉と錦鯉は同じ魚ですが、色鯉を食べる習慣がなく、食用にすることが難しいため調味料として使用できる魚醤を生産することを考えました。廃棄稚魚を活用し、実験を繰り返しました。
調査する中で近年発見された速そくじょうぎょしょう醸魚醤方法を活用できないかと仮説をたてました。魚醤を作るうえで最も重要な発酵は、魚自身がもつ消化酵素に加え、酵母・麹などの微生物の働きで行われており、通常は30℃で約1年かけて熟成させます。宮城県水産高校が作る「宇田川乃露」は、酵母や麹を加えずに、製造実習の際に発生するサンマの残ざんさ渣に30%濃度の塩を混ぜ、50℃の高温条件下で熟成させ、1カ月間という短期間で魚醤が作れます。この研究を参考に、鯉から魚醤ができるか実験を行いました。多くのパターンからより良いものを探すため、まず食塩濃度を変化させた実験を行いました。特に醗酵の良かったのが塩分濃度15%であり、サンマとは違う結果となりました。次に塩分濃度15%にそろえ、市販の乳酸菌(ヤクルト、LG21、ビフィズス菌、R-1)をそれぞれ10%、15%、30%、50%を加えたものを材料としました。また、調査文献から抗菌作用があるヒノキを添加しました。これらを50℃に設定したインキュベーター内で発酵させました。1カ月後、醸造したものをろ紙上でろ過し、ろ液を80℃で30分加熱し、魚醤を得ました。
生産した魚醤と市販の魚醤を比較すると、鯉魚醤は市販の魚醤と遜色ないどころか、おいしく作ることができました。味分析として官能検査を行いましたが、匂いが非常によく、特に良いと感じたのは塩分濃度15%にR-1を10%添加した組み合わせでした。
また、廃棄される稚魚すべてを活用する方法として、耕作放棄地を利用した米生産を行い、除草を鯉にしてもらうことを考えました。世羅町は少子高齢化により、農業をしていた人々が田畑を使わなくなり、耕作放棄地も400ヘクタール(東京ドーム100個分の面積)にのぼります。昔は田に鯉を放し、雑草を防除する農法があったことを知り、耕作放棄地と錦鯉を使って鯉米を作ることを考えました。小さな鯉の稚魚は、合鴨農法のように害獣対策として田の周りを囲む必要もありません。鯉が泳ぐ米作りは、消費者にとって安全安心の象徴として米に付加価値をつけることができます。
毎年、処分される鯉の稚魚を活用できればと始めた魚醤の研究ですが、世羅町長をはじめ世羅町産業振興課、道の駅世羅、農業法人など多くの人の協力を得ながら地域に新たな加工食品を作る活動になりました。今回の実験から単純計算でも、8トンの稚魚で製造できる魚醤は4トンにもなります。お金を出してまで廃棄するのに困っていた鯉の稚魚を活用し、これから地域活性化に貢献していきたいです。
成果・実績
目標としていた、廃棄される鯉から魚醤を製造することができました。また、短時間でできる方法を確立することで、既存の施設でも十分製造可能であることを証明できました。さらに、廃棄される鯉の稚魚を活用した耕作放棄地の米生産を提案し、農業プランコンテスト「大地の力」コンペへ応募し、審査員特別賞を受賞しました。私たちの研究をさまざまな場所で発表することで、地域の方々に知っていただくことはもちろん世羅町長をはじめ産業振興課と連携して普及活動を行うことができました。
目標・今後の計画
地域の醤油屋さんと連携して商品販売をしていく予定です。稚魚醤油は癖が少なくうまみが多い醤油なので、各種イベントでの焼きおにぎりやうどんなどすぐに食べられる食品へ加工し、さらに普及していきたいです。また、地元プロ野球チーム「広島東洋カープ」のマツダスタジアムでのイベント参加も行いたいです。
米と鯉の生育調査は今後も行い、収穫まで研究を行います。収穫は10月で、道の駅にて販売予定です。私たちの活動は多くの方の注目を集め、鯉米を売ってほしいとの依頼や、鯉米を実践したいという方から学校へ相談が入っています。世羅町産業振興課と協議し、耕作放棄地を水田にし、鯉を放流して米栽培を実践していただいた方を、世羅町が「鯉米マイスター」として認定して、証明書を発行し米に付加価値をつける取り組みの整備をしています。
今年から40年続いた減反政策による補助金がなくなりました。耕作していなかった土地を改めて水田にしていくことで既存の農機具を生かしつつ、鯉を放流した除草農薬を減らし、減薬農法である鯉米という付加価値の高いブランド米を作ることで耕作意欲を高め、耕作放棄地を少しでも減らしていけるようさらに研究を続けていきたいです。そのためにも、もうかる米生産を証明していきたいです。